GAPの導入効果等に関する現地調査報告
 概要
 ●調査時期: 2012年11月
 ●調査場所: 三重県 団体事務所
 ●調査対象: G専門組合 推進委員会事務局
G専門組合推進委員会で取り組まれている伊勢茶GAP(IGAP)は、点検項目数が比較的少なく、あくまで努力目標であるものの、取引先(特に飲料メーカー)による衛生管理や品質管理に対する要求が近年強まっており、それに対応することがGAP運用の強いインセンティブになっている。推進委員会はG専門組合を中心に県内の茶専門農協と連携して設立運営されている。
1 産地(農協や各種部会、農業法人などの団体・組織)について
1-1 地域農業のすがた
三重県は「伊勢茶」の産地であり、県別での茶の栽培面積(3,180ha:平成23年)と生産量(荒茶7,100t:22年)は静岡県、鹿児島県に続く全国3位、特産の「かぶせ茶(おおい茶)」の生産量は全国1位である(1,390t:22年)。茶の中心的な産地は北勢地域と南中勢地域にあり、その他県内各地に小規模産地が点在する。
伊勢茶の栽培面積は昭和50年代以降、微減傾向にある。北勢地域では、作業機械の利用による経営規模の拡大が進んでいる。
1-2 調査対象経営の概要
平成15年にG専門組合を中心に「伊勢茶ガイドライン」の設定とともに推進委員会が設立され、伊勢茶の生産履歴記帳・開示の取り組みが開始された。同年、三重県によって伊勢茶が「三重ブランド」に認定された。平成20年に伊勢茶GAP(IGAP)が作成され、県内の茶産地でGAPの取り組みが進められている。当委員会の概要を表1にまとめる。
◯出荷先
県内の茶市場すなわち茶専門農協は4つあり、うち3つが北勢地域にある。製茶業者が茶市場に出荷した荒茶の一次出荷先は生産量の7割程度が三重県内の茶商である。そのほか飲料メーカーに約1割、消費者への直販に約1割、百貨店に5%程度出荷しており、自家消費が5%程度ある。
県外への出荷先は正確な把握が難しいが、移出量の約4割が京都を中心とする近畿地方に、約3割が愛知・岐阜県等に、約2割が静岡県等の関東地方に移出されていると推定される。
◯経営課題
国内の茶の需要低下とともに、県内の茶の栽培面積、生産量、製茶業者(工場)ともに、年々減少しており、茶生産の維持が大きな課題である。その中で、特に北勢地域では経営規模の拡大が進んでいる。
また、実需者(取引先)のニーズとして衛生管理・品質管理への要求が高まっており、それをふまえて茶の生産履歴記帳やGAPの取り組みを全県的に推進している。
G専門組合推進委員会がGAPを導入した経緯、運用上の課題についてヒアリング結果をもとに、以下にまとめる。
◯GAPの種類および品目
取り組んでいるGAPは、推進委員会が独自に作成した「伊勢茶GAP」、通称IGAPである。IGAPは日本GAP協会によるJGAPを参考に、点検項目を大幅に絞って作成されたものである。IGAPのチェックリスト(点検表)は、生葉農家版(手元保存用16項目、工場提出用35項目)、製茶工場版(茶市場提出用34項目)、指導担当者版(34項目)からなる。
このほか、1戸の農業生産法人は独自に、JGAP「日本緑茶」の認証を取得している。
2 GAP導入に至るまでの経過
2-1 GAP導入の契機・準備
当推進委員会がGAPの導入を開始した時期は、平成20年4月である。平成15年より全県的に茶の生産履歴記帳の取り組みを進めていたが、県の取り組みとして「三重県型GAP」が制定され、補助事業としてGAP導入の推進が始まった。それに応じてG専門組合が中心となって平成19年に伊勢茶生産におけるGAP導入の体制整備が始まった。
産地独自のIGAPについては、平成20年から23年までに、JGAPを参考にして点検項目や記帳様式の作成・更新が行われた。なお、IGAPはあくまで努力目標という位置付けである。
2-2 GAPの運用体制
IGAPに取り組んでいる組合員すなわち製茶業者の数は130戸であり、出荷量は1,200tである。製茶業者に出荷する生葉農家の数は1,000戸強である。
GAPの取り組みにおいて、事務局としての担当者は、GAP関連業務の専任が1名、営農指導など他業務との兼任が5名である。GAPに関する説明会・研修は6回程度開催している。
点検の実施については、生葉農家は茶期後に1回チェックして製茶業者に提出する。製茶業者による生葉農家への内部点検は年に1〜2回である。製茶業者は製茶工場用チェックリストを用いて製茶日ごとにチェックを行い、茶市場(茶専門農協)に提出する。茶市場は二者点検として、指導担当者版チェックシートを用いて茶期ごと(年3回)に各2回、製茶工場をチェックするとともに指導を行う。その際、県の普及指導員が同行して第三者点検も行う。
3 GAP導入の目的・効果および費用
3-1 GAP導入の目的とその効果
当推進委員会がGAPを導入した目的と導入後に認められた効果をまとめたものが表2である。全体的にみると導入目的に対する効果がある程度認められたといえる。目的と効果の具体的内容のうち特筆すべきは次の項目である。
●食品の安全性の向上:農薬の適正使用、在庫管理や、製茶工場の衛生管理について、製茶業者が自分で改善するという意識が高まってきている。
●農作業時の安全確保:近年作業機械が大型化しており、年に数件傷害事故が発生している。安全対策を明文化したことによる事故防止の効果が見られる。
●食品事故・クレームの減少:GAP導入後、異物混入が大きく減少し、現在は取引先からのクレームは年に数件程度である。
●取引先の要求:GAP導入の主な目的は、取引先からの商品の安全性や品質確保に対する要求であった。GAPに取り組むことが信頼感のある取引の担保となっている。
3-2 GAP導入にかかる費用
GAP導入にかかる費用や手間について、初期導入時とそれ以後の運用時に分けてみてみる(表3)。
このうち特にかかった費用は、初期導入時における「生産履歴記帳システム」のソフトの製作・導入であり、一部を業者に委託して製作した。このソフトは製茶業者に無料で配布しており、その後も当委員会が農薬使用基準データ等の更新を行っている。そのほか、「外部コンサルタントへの委託」、「作業マニュアル・帳票等の整備」、「団体・組織の人件費」、「生産者(組合員)の研修」などで費用がかかっている。ただし、GAP導入時にマニュアル・帳票等の書類を印刷・ファイリングして製茶業者に配布したが、あまり見てもらえず、効果は薄かったと思われる。
3-3 GAP導入の費用対効果
GAP導入の費用対効果に対する満足度は「やや満足」であった。満足する主な理由は、商品への異物混入などが減少したことで取引先からのクレームが少なくなっていることである。
4 GAP導入の具体的な成果
4-1 生産原価への影響
GAP導入の成果のうち数量的に把握できる項目について検討する。
まず、生産原価については明確な効果が認められなかった。農薬や肥料についても、減農薬減化学肥料栽培の動向はあるもののコストはあまり変わらない。
4-2 販売への影響
商品の販売については、取引先からの衛生管理や品質管理に対する要求からGAPを導入したが、販売額にはGAP導入の効果はほぼなかった。
4-3 労働時間への影響
製茶業者ならびに生葉農家における労働時間(以下概算)は、GAP導入後、生産履歴等の記帳では年間3時間から10時間に、書類整備では年間1時間から5時間に増加した。
GAPの事務局である茶専門農協職員の労働時間は、GAP導入後、書類整備、点検表の配布・回収、産地指導・点検でそれぞれ年間50時間、10時間、100時間に増加し、大幅な負担増となっている。
4-4 品質向上への影響
商品の品質、等級などについて、GAP導入の効果はみられなかった。
5 GAP導入・運用の課題・問題点
5-1 GAP導入・運用の課題・問題点
GAPを導入・運用するにあたっての課題・問題点について導入前後に分けて示す(表4)。
特に重要な点として挙げられたのは、GAP導入前と導入後の「帳票等の整備に労力がかかる」ことであった。その理由として、取引先から生産履歴などの帳票データの開示要求に対応することに労力がかかっている。
5-2 GAP導入・運用のポイント
最後に、GAP導入・運用にあたっての重要なポイントを表5にまとめた。この中で特に重要なポイントは「作業工程の明確化」であった。茶の生産における衛生管理では、栽培や製茶の工程で食品衛生法上どこに問題があるか(危害要因)を特定して改善するということが重要である。
6 特記事項・考察
三重県内の茶産地で取り組まれている伊勢茶GAP(IGAP)は、点検項目数が比較的少なく、あくまで努力目標であるものの、取引先(特に飲料メーカー)による衛生管理や品質管理に対する要求が近年強まっており、それに対応することがGAP運用の強いインセンティブになっている。
GAP運用のキーパーソンは、推進委員会事務局であるL茶専門農協のM氏である。県内の茶市場と連携して推進委員会を設立し、IGAPの構築・推進を行ってきたほか、生産履歴記帳システムのソフト製作、製茶業者への無料配布、ならびに農薬データの更新を自身で行っている。しかし将来的に、M氏以外の人がGAP関連の中心的役割を担えるかどうかが課題といえる。
4年前に茶の価格が暴落して売上げは以前の3割減となっている。一方で飲料メーカー等からは産地でのGAP運用の要求が強まっているため、小規模な生葉農家や製茶業者、あるいは高齢者への負担がさらに増えることになれば経営をやめるケースが増えることが考えられる。産地の維持のためには、経営規模の拡大によって大型作業機械の導入や衛生管理の整った製茶工場の整備を進めることが課題である。
参考文献
「三重県茶業の現状」、三重県、2012年2月
「三重県型GAP」(三重県 食の安全・安心ひろば 自主管理の推進)
http://www.pref.mie.lg.jp/SHOKUA/HP/housin-2/index.htm
「伊勢茶」(伊勢茶推進協議会)
http://www.isecha.net/
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